プロバイダ責任制限法と発信者情報開示について

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発信者情報開示が認められるか否か

(相手方) 中華電信股份有限公司

(申立人) X

  • 事案の要旨

申立人が、インターネット接続サービスを提供する台湾法人である相手方に対し、プロバイダ責任制限法5条1項、8条の規定に基づき、本件各投稿に係る発信者情報の開示命令の申立てをした事案である。

  • 東京地方裁判所で却下されている

(却下理由)

プロバイダ責任制限法の対象となる行為は、日本において事業を行う者が日本における業務に起因したものでないと適用にならない。

用語の説明

プロバイダ責任制限法:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律

申立ての背景

Xが著作権を有する漫画の画像データを「BOOTH」(サイト名)のサーバに不詳の人物が複数回アップロードしたことが、Xの複製権及び公衆送信権を侵害するものであり、上記発信者情報の開示が損害賠償請求権等の行使のために必要であると主張したため。

東京地裁の却下理由詳細

台湾に所在する中華電信股份有限公司が、台湾に所在する者との間で締結された台湾に所在する者向けのプロバイダ契約に基づき提供したインターネット接続サービスを利用して行われたことから法の適用外とした。

知的財産高等裁判所の判断

1.相手方が「日本において事業を行う者」といえるか

相手方は台湾に所在し、電気通信業を営む法人であるものの、日本国内において、主に台湾からの旅行者のために国際ローミングサービスを提供しており、日本の空港等では日本から台湾への旅行者向けにSIMカードを販売していることが認められる。そうすると、相手方は、「日本において事業を行う者」に当たるということができる。

2.「申立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」といえるか

「BOOTH」は、日本語が使用される日本向けのサイトであって、相手方が台湾で提供するインターネット接続サービスが、当該サイトのサーバに接続され、その結果、本件各投稿がされたこと、本件各投稿のうちの一部の投稿には、「お初のオリジナルTL漫画です。よろしくお願いします」、「追加支援のお方ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。」との流ちょうな日本語による記載があることが認められ、本件各投稿は、日本人向けに提供されているSIMカードその他の相手方の日本人向けサービスを利用して行われた可能性が高いといえる。

実質的に見て日本に居住する日本人向けとしか考えられないようなインターネット接続サービスを利用して行われたといえる。そのような場合に、あえて国内のプロバイダを経由することなく、外国に業務の本拠を置くプロバイダが利用されたからといって、当該業務が「日本における」ものでないとして我が国の国際裁判管轄を否定するのは相当でない。本件申立ては、「申立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」に当たるというべきである。

知的財産高等裁判所の判決

令和6年(ラ)第10002号 発信者情報開示命令申立却下決定に対する即時抗告申立事件

主 文
  1. 原決定を取り消す。
  2. 本件を東京地方裁判所に差し戻す。

発信者情報開示請求は通ると思いますが、実際に開示してくれるかどうかは疑わしい。日本の会社ならば問題なく開示するだろう。

しかし、著作権侵害等を行っているという意識がありながら、海外のサーバーやプロバイダーを経由すれば身元を知られずにやり過ごせるという考えは、個人情報が開示され損害賠償のリスクに晒されるので止めた方がいいだろう。

この記事を書いた人 Wrote this article

ogoe

福島県南相馬市原町区から上京してきて30年以上経ちます。仕事は、財務経理が20年以上、不動産関係が10年以上経験があります。趣味は音楽と写真。運動を数値化し写真撮影も楽しんでいきます。

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